会社法において、株券を発行する会社(株券発行会社)と発行しない会社(株券不発行会社)では、株式の譲渡方法や、株主としての権利を会社・第三者に主張するための要件(対抗要件)などが大きく異なります。
現代の日本においては「株券不発行」が原則(デフォルト)であり、定款に「当会社の株式については株券を発行する」という旨の定めを置いている会社のみが「株券発行会社」となります。
これら2つの違いを、実務上重要となる「譲渡手続き」「対抗要件」「担保設定(質入れ)」などの観点から整理しました。
1. 基本的なルールの比較一覧
| 項目 | 株券発行会社 | 株券不発行会社(原則) |
|---|---|---|
| 原則・例外 | 例外(定款に「株券を発行する」旨の定めが必要) | 原則(定款に別段の定めがなければ不発行) |
| 株式の譲渡方法 | 株券の交付が絶対条件(交付がなければ譲渡の効力自体が発生しない) | 当事者間の合意(意思表示)のみで成立 |
| 会社に対する対抗要件 | 株主名簿の書換え | 株主名簿の書換え |
| 第三者に対する対抗要件 | 株券の占有(持っていること) | 株主名簿の書換え |
| 株主権利の行使(権利行使) | 会社に株券を提示して請求する(※名簿未書換の場合) | 株主名簿の記載に基づいて請求する |
2. 譲渡手続きと対抗要件の詳細
実務上、最もトラブルになりやすく明確に区別すべきなのが「譲渡の成立」と「対抗要件(権利の主張)」の関係です。
① 株式の譲渡方法
- 株券発行会社:
当事者間で「譲渡します」と合意するだけでは不十分です。実際に株券を相手に引き渡す(交付)ことによって初めて、譲渡の効力が発生します(会社法128条1項)。 - 株券不発行会社:
株券が存在しないため、当事者間の口頭や書面による合意(意思表示)だけで譲渡の効力が発生します。
② 会社に対する対抗要件(株主権利の主張)
どちらの会社であっても、自分が株主であることを会社に認めさせ、配当金や議決権を得るためには、株主名簿の書換え(名義書換)が必要です(会社法130条1項、2項)。
③ 第三者に対する対抗要件(二重譲渡などの防衛)
- 株券発行会社:
株券を占有(所持)していることが第三者への対抗要件となります。もし会社が株主名簿を書き換えていなくても、株券を持っていれば「自分が株主だ」と第三者に主張できます。 - 株券不発行会社:
株券がないため、株主名簿の書換えが「会社に対する対抗要件」と「第三者に対する対抗要件」の双方を兼ねることになります。
3. 株式の質入れ(担保設定)の違い
融資を受ける際などに株式を担保に入れる「質入れ」の手続きも異なります。
- 株券発行会社(略式質・登録質):
質権(担保権)を設定するには、株券の交付が必須です。 - 略式質: 株券を継続して占有することで第三者に対抗。
- 登録質: 株主名簿に質権者として登録することで会社・第三者に対抗。
- 株券不発行会社:
合意によって質権は成立しますが、会社や第三者に対抗するためには、株主名簿に質権者の氏名・住所を記載(登録)する必要があります。
4. 実務上の注意点:株券発行会社での「株券不所持」
株券発行会社であっても、株主が会社に対して「株券を発行しないでほしい」と申し出ることができる「株券不所持制度」(会社法217条)があります。
この場合、会社は株券を発行せず、株主名簿に「株券不所持」の旨を記載します。一見すると「株券不発行会社」と同じ状態に見えますが、法的な建付けはあくまで「株券発行会社」です。
そのため、この不所持状態の株式を譲渡する場合は、原則として会社に「株券の発行」を請求して現物を受け取ってから、それを相手方に交付しなければ譲渡の効力が生じない点に注意が必要です(実務上のトラブルになりやすいポイントです)。