株式会社を設立する際、避けて通れないのが「発起設立」と「募集設立」という2つの手法の選択です。また、出資のプロセスでトラブルになりやすい「変態設立事項」についても、正しい知識を持っておく必要があります。
本記事では、これら会社法上の重要ポイントを分かりやすく整理して解説します。
1. 発起設立と募集設立の比較
2つの手法の最大の違いは、「発行する株式を誰が引き受けるか(お金を誰が出すか)」という点です。
| 項目 | 発起設立 | 募集設立 |
|---|---|---|
| 株式の引受人 | 発起人(設立メンバー)のみがすべての株式を引き受ける。 | 発起人だけでなく、外部の投資家(募集に応じた人)も株式を引き受ける。 |
| 手続の複雑さ | 比較的シンプルでスピーディ。 | 外部からお金を集めるため、手続きが厳格で複雑。 |
| 設立時取締役の選任 | 発起人の議決権の過半数で選任。 | 創立総会(株主総会のようなもの)を決議して選任。 |
| 取締役会設置 | 任意(取締役1人でもOK)。 | 必須(取締役3人以上・監査役1人以上が必要)。 |
| 公証人の調査 | 変態設立事項がある場合、原則として検査役(裁判所が選ぶ調査員)の調査が必要。 | 変態設立事項だけでなく、設立手続き全般について検査役または公証人の調査が必要。 |
💡 実務上のポイント
現在の実務では、手続きが圧倒的に楽な「発起設立」が全体の9割以上を占めています。まずは発起設立で会社を作ってしまい、後から第三者割当増資などで外部から資金を調達する方が効率的だからです。
2. 変態設立事項(へんたいせつりつじこう)とは?
「変態」とは法律用語で「通常とは異なる特別な形態」という意味です。
株式会社の資本金は「原則として現金」で出資しますが、現金以外の出資を認めたり、設立に貢献した人に特別な報酬を約束したりすると、会社の財産がペーパー上の金額よりも少なくなってしまうリスク(資本充実を害するリスク)があります。
これでは、一緒に会社を作る他の出資者や、今後の取引先(債権者)が損をしてしまいます。そこで、会社法第28条では「怪しい約束は、定款(ていかん)にちゃんと書かないと効力を持たせない(相対的記載事項)」と規制しています。
具体的には、以下の4つが該当します。
① 現物出資(げんぶつしゅっし)
お金ではなく、「車」「パソコン」「不動産」「特許権」などのモノで出資することです。
- できる人: 発起設立では発起人のみ。募集設立では発起人+外部の引受人も可能。
- 定款記載内容: 出資者の氏名、財産の詳細、与える株式の数。
② 財産引き受け(ざいさんひきうけ)
会社の設立を条件に、設立後に特定の財産を買い取ることを、あらかじめ約束しておくことです。現物出資の抜け道として使われやすいため、同様の厳しい規制がかかります。
③ 发起人が受ける報酬(ほっきにんがうけるほうしゅう)
会社を設立したご褒美として、発起人が会社から受け取る報酬です。金額を自由に決められると、設立直後にお金が流出してしまうため、定款に金額や氏名の記載が必要です。
④ 設立費用(せつりつひよう)
定款の認証手数料や登録免許税など、会社設立までにかかった費用のうち、会社が負担する額です。発起人の個人的な費用を会社につけ回しされるのを防ぎます。
3. 現物出資の「検査役調査」と免除規定(設立時・設立後)
変態設立事項(特に現物出資や財産引き受け)がある場合、原則として裁判所が選任した「検査役」の調査を受けなければなりません。しかし、これには多額の費用と数ヶ月の時間(数ヶ月)がかかるため、実務では以下の免除規定を使ってスキップするのが一般的です。
会社設立時の免除要件
- 500万円以下の少額特例: 現物出資・財産引き受けの総額が500万円以下であれば調査不要(実務上の王道)。
- 市場価格のある有価証券: 上場株式などを市場価格を超えない価額で出資する場合。
- 専門家の証明: 弁護士、公認会計士、税理士などの専門家から「評価額が適正である」という証明書をもらった場合(不動産は不動産鑑定士の鑑定も必要)。
会社設立「後」の増資時の免除要件
設立後に新株を発行して現物出資を受ける場合も、原則として検査役の調査が必要(会社法207条)ですが、設立時の3つに加えてさらに強力な2つの免除規定が使えます。
- 10分の1特例: 現物出資者に割り当てる株式数が、発行済株式総数の10分の1以下であれば金額に関わらず調査不要。
- DES(債務の株式化)特例: 社長が会社に貸し付けているお金(役員借入金)などを資本金に振り替える場合、帳簿価額を超えなければ調査不要。
4. 現物出資された財産の設立後の扱い
会社設立時に現物出資された財産は、設立が完了した瞬間から「完全に会社の所有物」となり、以下のように処理されます。
- 会計処理: 出資された財産の時価を各勘定科目(車両運搬具、工具器具備品など)に計上し、相手勘定を「資本金」とします。
- 減価償却: 償却資産であれば、設立後は通常の購入資産と同じように減価償却を行い、法人の経費(損金)に落とせます。中古品を出資した場合は「中古資産の耐用年数(簡便法)」を使って償却期間を短縮可能です。
- 名義変更: 自動車の移転登録や、不動産の所有権移転登記など、個人から法人への名義変更手続きを速やかに行う必要があります。
- 不足額の補填責任(会社法52条): 設立後、出資された財産の実際の価値が定款に記載された価額に著しく不足する場合、発起人および設立時取締役は、足りない差額を会社に対して連帯して現金で支払う義務(無過失責任)を負います。
まとめ:定款記載は「絶対マスト」
変態設立事項は、定款に記載(または記録)しなければ、その約束は法律上「完全に無効」になります。発起人同士でどれだけ合意していても、会社に対して効力を主張することは一切できません。
実務で現物出資等を行う際は、「必ず定款に詳細を明記すること」、そして「500万円以下の免除規定に収める、または専門家の証明を利用して検査役をスキップすること」の2点が極めて重要です。