株券不所持制度(かぶけんふしょじせいど)とは、株券を発行する会社(株券発行会社)において、株主が「自分は紙の株券を持っていたくないので、会社で保管(不発行に)しておいてほしい」と申し出ることができる制度です(会社法217条)。
紛失や盗難、偽造のリスクを避けるために設けられています。
1. 制度の仕組みと特徴
- 株主からの申し出: 株主は会社に対して、特定の株式について株券の所持を希望しない旨をいつでも申し出ることができます。
- 株券の無効化と不発行: すでに株券が手元にある場合は会社に提出し、会社がそれを株主名簿に記録することで、その株券は無効(ペーパーレス状態)になります。まだ発行されていない場合は、会社は株券を発行しません。
- いつでも再発行が可能: 不所持の申し出をした後でも、株主は会社に対して「やっぱり株券を発行してほしい」といつでも請求できます。
⚠️ 注意点(譲渡時のルール)
株券不所持制度を利用していても、その会社自体が「株券発行会社」である以上、株式を他人に譲渡(売却)する際には、一度会社に株券を発行してもらい、それを相手に手渡す(交付する)必要があります。(株券を出さずに名義書換だけを行っても、譲渡の効力が発生しないため注意が必要です)
2. 「株券不所持制度」と「株券不発行制度」の違い
実務上、この2つは混同されやすいですが、「会社全体のルール」か「株主個人の選択か」という大きな違いがあります。
| 項目 | 株券不所持制度(会社法217条) | 株券不発行制度(会社法214条など) |
|---|---|---|
| 対象 | 株券を発行する会社の株主 | 株券を一切発行しない会社 |
| 主体の違い | 株主の意思で「私は持たない」と決める | 会社の定款で「株券は発行しない」と決める |
| 譲渡の方法 | 一度株券を発行してもらい、株券を交付する | 株券は存在しないため、当事者の合意と株主名簿の書換えで行う |
| 再発行 | 可能(株主が請求すれば発行される) | 不可能(定款を変更しない限り発行できない) |
3. 現在の実務における位置づけ
現在では、この制度が使われるケースはかなり限定的になっています。理由は以下の法改正の流れにあります。
- 上場企業の場合: 2009年(平成21年)の「株券電子化」により、すべての上場企業は強制的に「株券不発行」となったため、この不所持制度自体が存在しません(すべてほふり等の振替口座で管理されています)。
- 非上場(中小企業など)の場合: 2006年(平成18年)施行の会社法により、日本の株式会社は原則として「株券を発行しない(不発行)」がデフォルトになりました。定款にわざわざ「株券を発行する」と定めている会社(旧商法時代からそのままにしている会社など)でのみ、現在もこの不所持制度が適用されます。
もし、ご自身が関わっている会社が「株券を発行する定款」になっており、株券の紛失リスクや管理コストを完全に無くしたい場合は、株主個人の不所持申出を待つよりも、株主総会で定款を変更して「株券不発行会社」へと移行するのが現在の一般的な実務の手順です。