取締役(特に代表取締役)が会社に対して負う責任の中でも、期末の決算において生じる「填補(てんぽ)責任」は、実務上非常に重要なポイントです。
1. 填補責任が発生する主なケース:欠損配当
最も代表的なケースは、「剰余金の分配(配当)」において、分配可能額を超えて配当を行った場合です(会社法第462条)。
いわゆる「タコ配当(分配可能額がないのに配当すること)」をしてしまい、その年度の期末(決算期)において、貸借対照表上の資産額が負債・資本の合計額に足りない(欠損が生じている)場合に、その不足分を補填する責任が生じます。
具体例
- 分配可能額の計算ミス: 本来なら1,000万円しか配当できないのに、計算を誤って1,500万円配当してしまった。
- 違法な自己株式の取得: 分配可能額を超えて、会社が株主から対価を払って自社株を買い取った場合。
2. 責任を負う対象者
この責任は、代表取締役だけでなく、以下の者も連帯して負うことになります。
- 分配に関する職務を行った取締役(議案を提出した代表取締役など)
- 分配に賛成した取締役(取締役会で賛成票を投じたメンバー)
3. 責任の性質:無過失責任に近い厳格さ
通常、役員の損害賠償責任は「過失(不注意)」があった場合に認められますが、この期末の填補責任は極めて厳格です。
- 過失の推定: 原則として「注意を怠らなかったこと」を証明できない限り、責任を免れません(会社法462条2項)。
- 総株主の同意でも免除不可: 通常の損害賠償責任は、総株主の同意があれば免除できますが、この填補責任のうち「分配可能額を超えた部分」については、総株主の同意があっても免除することができません。
- ※これは、会社にお金がなくなることで損害を被る「債権者」を保護するためです。
4. 責任発生のフロー
- 配当の実施: 取締役会の決議等に基づき株主へ配当。
- 期末決算の確定: 当該事業年度末に欠損(資産不足)が判明。
- 填補責任の発生: 配当に関与した取締役が、会社に対して連帯して「不足額(または配当額)」を支払う義務を負う。
まとめ:実務上の注意点
代表取締役としては、以下の点に留意する必要があります。
- 配当を行う際は、顧問税理士や会計士とともに「分配可能額」の計算を厳密に行うこと。
- 期末に欠損が生じる見込みがある場合は、無理な配当や自己株式の取得を避けること。
- 取締役会での決議プロセスを記録(議事録作成)し、適切な判断であったことを証明できるようにしておくこと。