原則として、自己株式の取得は「分配可能額」の範囲内で行う必要があります(財源規制)。しかし、会社法では「株主の権利保護」や「組織再編上の必要性」がある場合に限り、この制限を受けずに取得できる例外が認められています。
財源規制(分配可能額の制限)を受けない主なケース
以下のケースでは、会社の資産状況に関わらず、自己株式の取得が法的に認められています。
1. 反対株主の株式買取請求に応じる場合
合併や事業譲渡、定款変更による譲渡制限の設定など、会社の根幹に関わる決定に反対する株主が、「自分の株を公正な価格で買い取れ」と請求する権利を行使した場合です。
- 理由: 株主の投下資本回収の機会を法的に保障するため。
2. 譲渡承認を拒絶した場合の買取り
譲渡制限株式を持つ株主が他人に売却しようとした際、会社がその承認を「拒否」した場合、会社は自ら買い取るか、別の買受人を指定しなければなりません。
- 理由: 会社が売却を認めない以上、自ら買い取らなければ株主が換金できなくなるため。
3. 相続人等に対する売渡請求
譲渡制限会社において、株主の死亡により「会社にとって好ましくない人物」に株式が相続された場合、会社は定款に基づき、その相続人に「株を売り渡せ」と請求できます。
- 理由: 閉鎖的な会社構成を維持し、経営の安定を守るため。
4. 全部取得条項付種類株式の取得
株主総会の特別決議によって、特定の種類の株式すべてを強制的に取得する場合です。
- 理由: 100%減資やスクイーズアウト(少数株主の追い出し)など、組織再編のプロセスで必要となるため。
5. 無償で取得する場合
株主から贈与を受けるなど、対価を支払わずに株を取得する場合です。
- 理由: 会社の純資産が流出(減少)しないため、債権者を害するおそれがないから。
例外ケース一覧表
| ケース | 目的・理由 | 根拠条文(抜粋) |
|---|---|---|
| 反対株主の買取請求 | 株主の退出権・換金機会の保障 | 116条、182条の4等 |
| 譲渡承認拒否時の買取り | 譲渡制限株主の投下資本回収 | 140条 |
| 相続人への売渡請求 | 望まぬ相続人への流出防止 | 174条 |
| 全部取得条項の実行 | 組織再編・スクイーズアウト | 171条 |
| 無償取得 | 会社資産の流出がない | 155条 |
実務上の重要ポイント:取締役の責任
通常、分配可能額に抵触して自己株式を取得した場合、決議に関与した取締役は連帯して不足分を会社に支払う「填補責任」を負います(会社法462条)。
しかし、上記の例外ケース(1〜4など)において分配可能額を超えてしまった場合、取締役は原則として支払義務を負いません。
これらは法的義務に基づいて、あるいは特定の目的に付随して行われる取得であり、取締役の過失(任務懈怠)を問う性質のものではないとされているためです。