「事後設立」とは、会社が成立した後(事後)に、特定の重要な財産を買い取る契約を結ぶことです。
一見すると通常のビジネスにおける売買取引のように見えますが、会社法では「変態設立事項(財産引受け)の規制を逃れるための脱法行為(すり抜け)」に使われやすいため、厳しく規制されています。
なぜ「事後設立」が規制されるのか?
設立前の財産取得である「財産引受け」には、定款への記載や検査役の調査といった厳しいハードルがあります。
もし事後設立に何の規制もなければ、発起人は次のような脱法行為を思いつきます。
- 設立時は、規制を避けるために「普通に現金だけで会社を作る」。
- 会社が成立した直後に、会社のお金を使って、発起人の持っている「価値の低い財産(ゴミ同然の土地など)」を「1,000万円」などの高値で買い取る。
これを行われてしまうと、会社の設立資金は実質的に発起人に奪われ、会社財産は空洞化してしまいます。この「財産引受けの潜脱」を防ぐための防犯カメラとして設けられているのが、事後設立の規制です。
事後設立の対象となる3つの要件
すべての財産取得が規制されるわけではありません。以下の3つの条件すべてに該当する契約が、会社法上の「事後設立」として規制の対象になります(会社法第467条1項5号)。
| 要件項目 | 規制対象となる具体的な内容 |
|---|---|
| 1. 時期 | 会社の成立後2年以内の契約であること。 |
| 2. 財産 | その会社の成立前から存在した財産であること。 |
| 3. 規模 | 財産の対価として支払う金額が、会社の純資産額の5分の1(20%)以上であること。 |
※ただし、会社の通常の営業の範囲内で行われる取引(例:商社が通常の仕入れとして商品を買い取るなど)は、金額が大きくても原則として除外されます。
取引の相手方は「発起人」に限定されるか?
結論から言うと、取引の相手方は「発起人」に限定されません。
発起人はもちろん、「募集株主(あとから出資した人)」や「まったく関係のない第三者」であっても、上記の要件を満たせばすべて規制の対象になります。
相手方を限定しない理由
もしこの規制が「発起人からの買い取り」だけに限定されてしまうと、以下のような新たな抜け道が簡単に作れてしまいます。
- 発起人Aが、自分の知人(第三者B)に、あらかじめ売りたい財産を名義変更しておく。
- 会社設立直後、会社のお金を使って、第三者Bからその財産を高値で買い取る。
このような、第三者を挟んだ迂回ルートによる会社の財産流出を防ぐため、会社法では「誰から買い取るか」ではなく、「取引の時期と規模」を基準にして一律に規制をかけています。また、純資産の5分の1を超えるような大規模な取引は、相手が誰であれ会社の財務健全性に大きな影響を与えるため、慎重なチェックが必要です。
事後設立に対する「規制内容」
上記の条件に当てはまる「事後設立」を行う場合、取締役の独断で契約することはできず、以下の手続きが強制されます。
- 株主総会の「特別決議」が必要
会社の財産が不当に流出していないか、株主が直接チェックできるように、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)を経なければ、その契約は有効になりません。
「財産引受け」と「事後設立」の違い
どちらも「会社のお金で特定の財産を買い取る」という点では同じですが、契約のタイミングと課される規制が異なります。
| 項目 | 財産引受け | 事後設立 |
|---|---|---|
| 契約のタイミング | 会社が成立する前 | 会社が成立した後(2年以内) |
| 取引の相手方 | 制限なし(発起人・第三者) | 制限なし(発起人・第三者) |
| 会社のチェック機関 | 裁判所(検査役)の調査 | 株主総会(特別決議)の承認 |
| 定款への記載 | 必要(書かないと無効) | 不要 |
- 設立前(財産引受け): まだ株主総会という組織が存在しないため、裁判所(検査役)が客観的にチェックします。
- 設立後(事後設立): すでに会社が動き出し株主が存在するため、株主(株主総会)自身に判断を委ねます。