現行の会社法(平成17年制定)では、かつての旧商法で認められていた「人的分割」という手続きそのものは廃止されています。しかし、実務上は「物的分割」と「現物配当」を組み合わせることで、同様の効果を得ることが可能です。
以下に、その仕組みと注意点をまとめます。
1. 「人的分割」と「物的分割」の違い
会社分割には、大きく分けて以下の2つの考え方があります。
| 区分 | 対価(新会社株式など)の帰属先 | 現行会社法での扱い |
|---|---|---|
| 物的分割(分社型) | 分割会社(元の会社)が受け取る | 標準的な手続きとして規定 |
| 人的分割(分割型) | 分割会社の株主が直接受け取る | 法律上の手続きとしては廃止 |
現行法では、すべての会社分割は一旦「物的分割」の形をとるルールになっています。
2. 実質的な人的分割を実現する「2段階スキーム」
人的分割と同じ状態(スピンオフなど)を目的とする場合、実務では以下の2つのステップを同時に行います。
- 物的分割(分社型分割) 事業を切り離し、対価(新会社株式)を分割会社が受け取る。
- 剰余金の配当(現物配当) 分割会社が受け取った新会社株式を、そのまま自社の株主に「配当」として分配する。
この一連の流れにより、最終的に株主が新会社の株式を直接保有することになるため、これを「実質的人的分割」や、税法上の用語で「分割型分割」と呼びます。
3. 「現物配当」のルールと注意点
剰余金の配当は、現金(金銭)である必要はなく、株式などの財産で行う「現物配当」が認められています。ただし、株主保護の観点から厳格な手続きが定められています。
① 株主総会の特別決議
通常の金銭配当は普通決議で可能ですが、現物配当を行うには、原則として株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。
② 金銭分配請求権
現物を望まない株主のために、「現物の代わりに現金で支払ってほしい」と会社に請求できる権利(金銭分配請求権)を付与する必要があります。
※ただし、配当財産が上場株式など市場価格がある場合は、例外的にこの権利を与えないことも可能です。
③ 財源規制の緩和(平成26年改正)
通常、配当には「分配可能額」の制限がありますが、会社分割と同時にその対価をすべて比例配当(持株比率に応じて分配)する場合、一定の条件のもとで財源規制が適用除外されます。これにより、利益剰余金が少ない会社でも組織再編が可能になっています。
4. 実務・税務上のポイント
- 税務上の区分: 会社法では「分割+配当」ですが、税務上は今も「分割型分割」として扱われます。
- 適格要件: 税制適格要件(グループ内再編など)を満たすかどうかで、譲渡損益の課税繰延やみなし配当の有無が決まるため、事前の税務検討が不可欠です。
- 表記の注意: 英文契約や会計資料等で日本円を表記する場合は、記号ではなくJPYを用いるのが一般的です。
本記事は、会社法および組織再編税制の一般的な概要をまとめたものです。具体的なスキームの検討にあたっては、弁護士や税理士等の専門家にご相談ください。